原研哉『低空飛行』2021,岩波書店
時間的・空間的にスケールの大きな物語が描かれている。
過去、現在、未来へと壮大な時間軸を駆け巡る、そして、日本各地、世界各地を旅しながら、その地に固有の文化、それに紐づいた風土に目を凝らす。
そこから掬い出されたデザイン。
デザインとは、「物事の本質を見極め可視化すること」だと著者は言う。
日本には1000年を超える長い歴史があり、文化の蓄積がある。
明治時代以降、日本はそれまでの伝統的文化から断絶し、西洋の文化をステキなものだと妄信してきた。
しかし、全国各地には、日本の歴史と文化の蓄積に裏打ちされた、宝石の原石のような観光資源がたくさんある。
それは十分に活かされているとは言い難い。
日本が長い歴史の中で培ってきた「美」をデザイン(可視化)し、観光資源として生かしていくこと。
それが日本の産業にとって一筋の光である。
しかしこれには、重大な問題がある。
それは日本に根付く「製造業的産業観」だ。
高度経済成長期に代表されるような、品質の高い製品を大量生産することが日本の強みだ。
しかし、これからの未来には「価値を見たてていく」ことが価値になっていく。
日本が長い歴史の中で培ってきた文化に光を灯し、価値として発信していく。
これが実は日本の苦手分野なのだ。
周囲を見渡しても、パソコンの処理速度、カメラの画素数や連写速度、学力偏差値など、1つの物差しの中でのスペックの優劣という発想を免れていない。
価値を見たてていくとは、たとえば、AppleのiPhoneのように、スペック競争から抜け出し、哲学に基づいて新しい価値を創造することをいう。
いかに機能の多さや、スペックが何倍であるかを競うことではない。iPhoneは、それまでのスペック競争という土俵とは別の土俵を作り出し、そこで新しい価値を発信して、多くの人のライフスタイルごと変えた。
このエピソードからも分かるように、価値を創造することは日本の得意分野ではなかった。しかし時代はシフトしている。
時代が変化に伴い、「製造業的産業観」から「価値を創造すること」への発想のシフトが、日本の未来に光を灯す鍵となっている。
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