思考は技術である。
『東大思考』西岡壱誠,2020

考えるということ
「考える」とは。
学校で、「この問を考えてみましょう」とは言われるけれど、
考えるって具体的に何をすること?
「下手の考え休むに似たり」ということわざがある。
下手が考えても、いい考えなど浮かばず時間ばかりが経って、休んでいるのと変わらないという意味。
頭がいい人が考えれば、上手な考えが浮かぶのか?
頭の良さは生まれ持った才能で、変えようがないのか?
この本を読めば、それは違うことがわかる。
考えることは「技術」だ。
頭が良い人と言われるのは、上手に考える方法(技術)を知っている人。
考える技術はいくつかある。それは考える「型」と言い換えても良いかもしれない。
考えることに限らず、音楽やスポーツなどあらゆる物事には「型」がある。
その型を身につけているのといないのとでは、成果が全く違ってくる。
5つの思考の型
本書では5つの思考の技術(型)が紹介されている。
①原因思考
目の前で起きた出来事(結果)からその原因を推測する技術。
②上流思考
目の前にある情報(下流)から、その前提・背景(上流)を推測する技術。
③目的思考
目的から逆算してそこへ至るための手段を考える技術。
④裏側思考
目の前にある情報(表側)から角度を変えて、裏側(目に見えない部分)を推定する技術。(物事を多面的に見る技術)
⑤本質思考
①〜④を用いてものごとの本質をあぶり出す技術。
5つの思考の型は、物事の本質をあぶり出すためのものだ。
本質とは、それを知っていればあらゆる事を理解できる要点、物事の核になる部分だという。
知の構造は、樹木構造にたとえられる。
表面的で細々とした情報は木の葉。
枝が、1段階深い情報。
木の幹が本質。
根は本質の背景にある情報。
葉から根に進むにつれて、ミクロからマクロな情報へ、表面的な情報から深い情報へと変化する。
本書の思考の型でいえば、葉から根へと進む道は、①結果から原因へ、②下流から上流へ、③手段から目的へ、④表側から裏側へ、⑤表面的な非本質から本質へと進む道と対応している。
この葉から根へと進む道の途中に「本質」がある。
本質をあぶり出すために、葉から根の間を行き来する技術が5つの思考の型である。
つまり、思考の型(頭がいいとされる考え方)とは、樹木構造の中を自在に移動する技術だと言える。
人によって見える世界が変わってくる
日常生活で目にしていることは、葉であって、思考の技術を用いなければ、葉→枝→幹→根へと移動することができない。
つまり移動する技術を持っていなければ、幹や根は見えないし、話を聞いても理解できない。思考の技術がある人は葉から根まで移動して物事を考えるが、技術がなければ葉にとどまったままだ。
葉から根までのことを見て話をする人と、葉しか見えていない人とでは、話は噛み合わない。
これは思考の型を身につけているかどうかで、見える世界が大きく変わってくることを意味する。
学業/仕事で、物事の葉しか見えない人と、幹や根まで透視できる人では、当然、生み出せるパフォーマンスは大きく変わってくるはずだ。
しかし本書を読めば、その技術を知ることができる。
文化資本
本書は、偏差値35だった著者が、東大に合格するために、周囲の頭がいい人たちが持っている思考の技術を研究した記録だ。
著者の周囲の人のように、幼い頃からその技術を身につけている人がいる一方で、そうでない人もいる。
つまりは、幼い頃から、頭のいいとされる思考回路に触れる機会があった層とそうでない層がいることになる。
知的な家庭に育てば、幼い頃より親との会話の中で、柔軟なものの考え方を聞いて知らず知らずのうちに身につけているかもしれない。
あるいは、家庭に知的な本があり、本を読む中で自然と思考の技術を身につけたかもしれない。
フランスの学者であるP.ブルデューが提唱した「文化資本」という概念がある。
文化資本とは、教養・知識、ものの考え方、言葉遣い、立ち振る舞い、趣味などの文化的な財産を意味する。
この文化資本が多い家庭(いわゆる知的な家庭)に生まれた子どもは、家族と暮らす中で、自然と多くの文化資本を身につけ、学校や仕事など、その後の人生を有利に進めることができる。
今の時代は、相続税のかかるお金(経済資本)ではなく、文化的な財産(文化資本)が親から子へと継承されることで、結果、貧富の差までもが継承されていく。
本書で紹介された「思考の型」もまた、この「文化資本」に該当するのではないだろうか。
知的な思考法を幼い頃より無意識に身につけ、当たり前のように使いこなす層もあれば、考えるとはどういうことで、思考が技術であることなど知らずに、自分の頭の悪さを決めこんで、諦めてしまう層もいるだろう。
しかし、思考の技術を研究した成果をまとめた本書にめぐり会えることは、幸運なことだと思う。
コメントを残す